暗黙の引数
暗黙の引数とは、def
コマンドや theorem
コマンド、variable
コマンドなどが受け取る構文の一つで、関数や定理の引数をユーザが明示的に与えなくても、Lean が文脈を読んで推論してくれるようになります。波括弧 {}
で囲んで、{x y : A}
のように書きます。
典型的な使用例
たとえば、暗黙の引数を使わなかった場合にどうなるかを見てみましょう。次の関数 List.subs
は型パラメータ α : Type
を受け取っていますが、第二引数 xs : List α
を見れば α : Type
が何であるかは分かるので、List.subs
を使用する際に毎回 α
を指定するのは冗長だと考えられます。
/-- 与えられたリストの部分リストを全て返す(明示的引数バージョン) -/
def List.subsₑ (α : Type) (xs : List α) : List (List α) :=
match xs with
| [] => [[]]
| x :: xs =>
let xss := subsₑ α xs
xss ++ xss.map (x :: ·)
-- 型引数 α を明示的に与える必要がある
#eval List.subsₑ Nat [1, 2]
-- 型引数を与えないと(当然ながら)エラーになってしまう
#check_failure List.subs [1, 2]
引数 α
を暗黙の引数として受け取るように変更すれば、Lean が α : Type
の内容を推論してくれるようになり、α
を省略できるようになります。
/-- 与えられたリストの部分リストを全て返す(暗黙引数バージョン) -/
def List.subsᵢ {α : Type} (xs : List α) : List (List α) :=
match xs with
| [] => [[]]
| x :: xs =>
let xss := subsᵢ xs
xss ++ xss.map (x :: ·)
-- 型引数を省略できるようになった
#eval List.subsᵢ [1, 2]
-- 逆に今度は型引数を与えるとエラーになる
#check_failure List.subsᵢ Nat [1, 2]
明示引数モード
暗黙の引数を受け取るものとして定義された関数や定理に対して、@
記号を先頭に付けると全ての暗黙の引数が明示的引数に変化します。
-- 2 つの暗黙引数を持つ関数
def List.map' {α β : Type} (f : α → β) : List α → List β
| [] => []
| x :: xs => f x :: map' f xs
-- 普通は次のように使う
#check List.map' (fun x => x == 1) [1, 2, 3]
-- `@` 記号を付けると全ての引数が明示的引数に変化
#check @List.map' Nat Bool (fun x => x == 1) [1, 2, 3]
構文についての補足
Lean.Parser.Term.implicitBinder
というパーサが暗黙引数の構文に対応しています。
open Lean Elab Command in
/-- ドキュメントコメントを取得して表示するコマンド -/
elab "#doc " x:ident : command => do
let name ← liftCoreM do realizeGlobalConstNoOverload x
if let some s ← findDocString? (← getEnv) name then
logInfo m!"{s}"
/--
info: Implicit binder, like `{x y : A}` or `{x y}`.
In regular applications, whenever all parameters before it have been specified,
then a `_` placeholder is automatically inserted for this parameter.
Implicit parameters should be able to be determined from the other arguments and the return type
by unification.
In `@` explicit mode, implicit binders behave like explicit binders.
-/
#guard_msgs in
#doc Lean.Parser.Term.implicitBinder
上記のドキュメントコメントにも書かれていますが、構文としては暗黙の引数に型を指定しないことも許されます。
-- `x : α` と書いたので、`α` が何かの型であることは分かる
def myId {α} (x : α) := x