linarith
linarith
は線形算術(linear arithmetic)を行うタクティクです。Fourier-Motzkin elimination を用いて、線形な(不)等式系から矛盾を導こうとします。一般に、ゴールが False
でないときにはゴールの否定を仮定に加えることで、ゴールを閉じようとします。
import Mathlib.Tactic.Linarith -- `linarith` のために必要
import Batteries.Data.Rat.Basic -- `ℚ` のために必要
example (x y : ℚ) (h1: x = 2 * y) (h2 : - x + 2 * y = 1) : False := by
linarith
example (x y z : ℚ) (h1 : 2 * x < 3 * y) (h2 : -4 * x + 2 * z < 0) :
12 * y - 4 * z ≥ 0 := by
linarith
linarith
はローカルコンテキストにある命題を読むので、linarith
が通らないとき、追加で補題を示すことで解決することがあります。
example (x : ℚ) : id x ≤ x := by
-- `linarith` で示すことはできない
fail_if_success linarith
have : id x = x := rfl
-- `id x = x` だと教えてあげると `linarith` で示せる
linarith
また、使ってほしい補題を直接渡すこともできます。
example (x y : ℚ) (h : x ≤ y) (pos : 0 ≤ x) : x + x ^ 2 ≤ y + y ^ 2 := by
-- `linarith` では示せない
fail_if_success linarith
-- `linarith` 単独で扱えない部分、つまり `x ^ 2 ≤ y ≤ 2` を示すための
-- 補題を引数で渡してやると通る
linarith [pow_le_pow_left₀ pos h 2]
舞台裏
linarith
は一般に、型クラス LinearOrderedCommRing
のインスタンスに対して動作します。ここで linear order とは全順序のことです。
variable {R : Type} [LinearOrderedCommRing R]
variable (x y z : R)
-- R 上の不等式だが `linarith` で証明できる
example (h1 : 2 * x < 3 * y) (h2 : -4 * x + 2 * z < 0) :
12 * y - 4 * z ≥ 0 := by
linarith
linarith と他のタクティクの使い分け
1 < 2
のような簡単な数値のみの不等式の場合、norm_num
や simp_arith
でも証明ができます。
同じ命題を示すのに複数のコマンドがあるわけですが、コマンド実行にかかる時間に違いがあります。
実行環境により正確な実行時間は異なりますが、linarith
は比較的重いタクティクです。
#time example : 1 < 2 := by simp_arith
#time example : 1 < 2 := by norm_num
#time example : 1 < 2 := by linarith