偶:ある数が均等に2で割れるなら偶数である。
Constructors
-
zero : _root_.Even 0
ここでは0は偶だと見なす
-
plusTwo {n : Nat} : _root_.Even n → _root_.Even (n + 2)
もし
n
が偶ならば、n + 2
も偶である。
Lean 言語リファレンス は Lean の包括的で正確な説明を意図しています。本書は第一義的にリファレンスであり、新規ユーザ向けのチュートリアルではなく、Lean のユーザが詳細な情報を調べるためのマニュアルです。現時点では、このリファレンスマニュアルは高階プレビューです。多くの節は今なお執筆中です。チュートリアルや学習教材については Lean のドキュメントのページ をご覧ください。
このドキュメントは Lean のバージョン 4.14.0-rc1 で記述されています。
Lean は依存型理論に基づいた 対話型定理証明器 (interactive theorem prover)であり、最先端の数学とソフトウェア検証の両方で使用できるように設計されています。Lean のコア型理論は、非常に複雑な数学的対象を捉えるにあたって十分な表現力を持ちながら、独立した実装を認めるのに十分なシンプルさを持っており、健全性に影響を与えるバグのリスクを軽減しています。コア型理論は、証明項のチェック以外には何もしない最小限の カーネル (kernel)として実装されています。この中核理論とカーネルは 表現力豊かなタクティク言語 で実現される高度な自動化によってサポートされています。各タクティクはカーネルによってチェックされるコア型理論の項を生成するため、タクティクにバグがあっても Lean 全体の健全性が脅かされることはありません。Lean の他の多くの部分と同様に、タクティク言語はユーザが拡張可能であるため、それぞれの形式化プロジェクトのニーズに合わせて構築することができます。タクティクは Lean 自体で記述されており、定義するとすぐに使用することができます:証明器の再ビルドや外部モジュールのロードなどは必要ありません。
また、Lean は純粋 関数型プログラミング言語 (functional programming language)でもあり、packed array 構造を効率的に扱うことができる参照カウントに基づくランタイムシステム・マルチスレッド・モナド IO
などの機能を備えています。プログラミング言語にふさわしく、Lean の言語サーバ・ビルドツール・ エラボレータ (elaborator)・タクティクシステムなどはもっぱら Lean 自体で実装されています。本書もまさに Verso という Lean で書かれた文書作成ツールで書かれています。
Lean のプログラムは新しいタクティクや証明の自動化を実装するために使用されるため、Lean のプログラミング機能に精通することは証明を書くことに主な関心があるユーザにとっても価値があります。したがって、このリファレンスマニュアルでは2つの側面の間に壁を設けず、むしろ互いに光を当てることができるように両者を一緒に説明しています。
Leonardo de Moura は2013年に Microsoft Research 在籍時に Lean プロジェクトを立ち上げ、2014年6月16日に Lean 0.1 が正式にリリースされました。Lean プロジェクトの目標は、独立に実装可能な小さな論理カーネル提供する高い信頼性と、SMTソルバのようなツールの利便性と自動化を組み合わせ、同時に大規模な問題にも対応できるようにすることです。このビジョンは現在も Lean の開発の指針となっており、自動化の改善・性能の向上・使いやすさの向上に投資されています;信頼されたコアな証明チェッカもまた最小限で、独立な実装が存在します。
Lean の初期バージョンは主に C++ ライブラリとして構成され、クライアントコードが独立してチェック可能な信頼できる証明を実行できるようになっていました。この初期の数年間で Lean の設計は、最初は Lua で書かれたタクティクからのちに専用のフロントエンド構文へと、伝統的な対話型証明器へと急速に進化しました。2017年1月20日、Lean 3.0 シリーズの最初のリリースがありました。Lean 3 は数学者に広く採用され、自己拡張性を開拓しました:タクティク・記法・トップレベルコマンドはすべて Lean 自体で定義できます。数学コミュニティは Mathlib を構築し、Lean 3 の終わり頃には数学の形式化は100万行を超え、すべての証明が機械的にチェックされていました。しかしシステム自体はまだ C++ で実装されていたため、Lean の柔軟性には限界があり、必要とされるスキルが多岐にわたるため、開発はより困難になっていました。
Lean 4 の開発は2018年に始まり、2023年9月8日の4.0リリースで実を結びました。Lean 4 は重要なマイルストーンを体現しています:バージョン4の時点で、Lean はセルフホストされており、Lean を実装するコードの約90%は Lean で書かれています。Lean 4 の豊富な拡張 API は、必要な機能を追加するためにコアの開発者に依存するのではなく、ユーザに自分のニーズへ適応させる能力を提供します。さらに、セルフホスティングによって開発プロセスが大幅に高速化されたため、Lean の機能やパフォーマンスをより迅速に提供することができます;Lean 4 は Lean 3 よりも高速で、より大きな問題にも対応できるスケーラビリティを備えています。Mathlib は Lean の開発者がサポートするコミュニティの努力によって、2023年に Lean 4 への移植に成功し、現在では150万行を超えるまでに成長しました。Mathlib が50%増大したにも関わらず、Lean 4 は Lean 3 がその小さなライブラリをチェックするよりも早くチェックします。Lean 4 の開発プロセスは以前のすべてのバージョンを合わせたのと同じくらいの時間がかかりましたが、開発者たちはその設計に満足しています。これ以上の改修は予定されていません。
Leonardo de Moura と彼の共同設立者である Sebastian Ullrich は2023年7月、Simons Foundation International・Alfred P. Sloan Foundation・Richard Merkin からの後援を受けて、非営利団体 Lean Focused Research Organization (FRO) を Convergent Research 内に立ち上げました。FRO は現在10人以上の従業員を擁し、Lean やより広範な Lean コミュニティの成長とスケーラビリティの支援に取り組んでいます。
本書では提示される情報のさまざまな側面を示すために、多くの表記やレイアウトの慣例を用いています。
本書には多くの Lean コードの例が含まれています。これらは次のような形式になっています:
def hello : IO Unit := IO.println "Hello, world!"
コンパイラの出力(エラー・警告・単なる情報)は、コードの中と別に表示されます:
#eval s!"The answer is {2 + 2}"
theorem bogus : False := ⊢ False All goals completed! 🐙
example := Nat.succ "two"
有益な出力、例えば Lean.Parser.Command.eval : command
`#eval e` evaluates the expression `e` by compiling and evaluating it.
* The command attempts to use `ToExpr`, `Repr`, or `ToString` instances to print the result.
* If `e` is a monadic value of type `m ty`, then the command tries to adapt the monad `m`
to one of the monads that `#eval` supports, which include `IO`, `CoreM`, `MetaM`, `TermElabM`, and `CommandElabM`.
Users can define `MonadEval` instances to extend the list of supported monads.
The `#eval` command gracefully degrades in capability depending on what is imported.
Importing the `Lean.Elab.Command` module provides full capabilities.
Due to unsoundness, `#eval` refuses to evaluate expressions that depend on `sorry`, even indirectly,
since the presence of `sorry` can lead to runtime instability and crashes.
This check can be overridden with the `#eval! e` command.
Options:
* If `eval.pp` is true (default: true) then tries to use `ToExpr` instances to make use of the
usual pretty printer. Otherwise, only tries using `Repr` and `ToString` instances.
* If `eval.type` is true (default: false) then pretty prints the type of the evaluated value.
* If `eval.derive.repr` is true (default: true) then attempts to auto-derive a `Repr` instance
when there is no other way to print the result.
See also: `#reduce e` for evaluation by term reduction.
#eval
の結果などはこのように表示されます:
"The answer is 4"
警告はこのように表示されます:
declaration uses 'sorry'
エラーメッセージはこのように表示されます:
application type mismatch Nat.succ "two" argument "two" has type String : Type but is expected to have type Nat : Type
タクティクによる証明状態の存在は、以下の rfl
の後のように、証明状態を表示するためにクリックできる小さな錠剤のようなマークの存在によって示されます:
example : 2 + 2 = 4 := ⊢ 2 + 2 = 4 All goals completed! 🐙
証明状態は単独で示されることもあります。 2 + 2 = 4
を証明しようとするとき、最初の証明状態は次のようになります:
All goals completed! 🐙
を使ったのち、結果の状態は次のようになります:
コード例中の識別子はそれのドキュメントに対してハイパーリンクが張られます。
構文エラーのあるコードの例は、エラーメッセージとともにパーサがどこで停止したかを示すインジケータを表示します:
def f : Option Nat → Type
| some 0 => Unit
|
=> Option (f t)| none => Empty
<example>:3:4: expected term
具体例は以下のように吹き出しの中に置かれます:
専門用語 とは、このようなリファレンスのような技術資料を書く際に、非常に特殊な意味で使われる用語を指します。 専門用語 の使用はこのようなリンクを使ってその定義位置にハイパーリンクされることがよくあります。
定義・帰納型・構文形成器・タクティクには具体的な記述があります。これらの記述は以下のように記されています。
/--
偶:ある数が均等に2で割れるなら偶数である。
-/
inductive Even : Nat → Prop where
| /-- ここでは0は偶だと見なす -/
zero : Even 0
| /-- もし `n` が偶ならば、`n + 2` も偶である。 -/
plusTwo : Even n → Even (n + 2)
Even : Nat → Prop
偶:ある数が均等に2で割れるなら偶数である。
zero : _root_.Even 0
ここでは0は偶だと見なす
plusTwo {n : Nat}
: _root_.Even n → _root_.Even (n + 2)
もし n
が偶ならば、n + 2
も偶である。