structure
structure
は構造体を定義するためのコマンドです。構造体とは、複数のデータをまとめて一つの型として扱えるようにしたものです。
structure Point (α : Type) : Type where
x : α
y : α
構造体を定義すると、自動的に作られる関数があります。代表的なものは以下の2つです。
- フィールドにアクセスするための関数。
- コンストラクタ。
フィールドへのアクセサはフィールドの名前で、コンストラクタは mk
という名前で作られます。
-- アクセサ
#check (Point.x : {α : Type} → (Point α) → α)
#check (Point.y : {α : Type} → (Point α) → α)
def origin : Point Int := { x := 0, y := 0 }
/-- アクセサを使用する -/
example : Point.x origin = 0 := by rfl
-- コンストラクタ
#check (Point.mk : {α : Type} → α → α → Point α)
コンストラクタに mk
以外の名前を使いたい場合、::
を使って次のようにします。
structure Prod (α : Type) (β : Type) where
gen ::
fst : α
snd : β
-- コンストラクタの名前が gen になっている
#check Prod.gen
フィールド記法
構造体 S
の項 s : S
に x
というフィールドがあるとき、S.x s
の代わりに s.x
と書くことができます。これにより、s : S
におけるフィールド x
の値を取得することができます。この関数適用を省略して「あたかもフィールドのように」値にアクセスする記法のことを フィールド記法(field notation) といいます。
Nim 言語や D 言語における Uniform Function Call Syntax に似た仕様です。
-- `.x` を付けるだけで値にアクセスできる
#guard origin.x = 0
構造体のフィールドへのアクセスが典型的な使い方ですが、より一般の型に対してもフィールド記法は使用できます。
名前空間 T
にある関数 f
があって、項 t : T
があったとします。このとき「f
の T
型の非暗黙の引数のうち、最初のものに x
を代入したもの」を x.f
で表すことができます。
/-- 点が原点かどうか判定する。以下の2点に注意:
* 名前空間 `Point` の直下に定義されていること
* `Point α` 型の引数を持つこと
-/
def Point.isOrigin (p : Point Int) : Bool :=
p.x = 0 && p.y = 0
-- フィールド記法が使える!
#guard origin.isOrigin
無名コンストラクタ
無名コンストラクタ(anonymous constructor) は、構造体 T
に対して T
型の項を構成する方法のひとつです。これは以下に示すように、⟨x1, x2, ...⟩
という構文により使うことができます。
/-- 2つのフィールドを持つ構造体 -/
structure Hoge where
foo : Nat
bar : Nat
def hoge : Hoge := ⟨1, 2⟩
コンストラクタが入れ子になっていても平坦化することができます。例えば、以下の2つの定義は同じものを定義します。
def foo : Nat × (Int × String) := ⟨1, ⟨2, "foo"⟩⟩
def foo' : Nat × (Int × String) := ⟨1, 2, "foo"⟩
#guard foo = foo'
一般の帰納型に対しては使用できません。
inductive Sample where
| fst (foo bar : Nat) : Sample
| snd (foo bar : String) : Sample
-- 「コンストラクタが一つしかない帰納型でなければ使用できない」というエラーになる
/--
warning: invalid constructor ⟨...⟩, expected type must be an inductive type with only one constructor ⏎
Sample
-/
#guard_msgs in
#check_failure (⟨"foo", "bar"⟩ : Sample)
-- コンストラクタを指定しても使用できない
#check_failure (Sample.snd ⟨"foo", "bar"⟩ : Sample)
項を定義する様々な構文
構造体の項を定義したい場合、複数の方法があります。波括弧記法が好まれますが、フィールド名が明らかな状況であれば無名コンストラクタを使用することもあります。
-- コンストラクタを使う
def sample0 : Point Int := Point.mk 1 2
-- 波括弧記法を使う
def sample1 : Point Int := { x := 1, y := 2 }
-- 無名コンストラクタを使う
def sample2 : Point Int := ⟨1, 2⟩
-- `where` を使う
def sample : Point Int where
x := 1
y := 2
値の部分的変更
既存の構造体のフィールドの一部だけを変更した新しい構造体の項を作ることができます。
variable {α : Type} [Add α]
/-- `p : Point` の x 座標を 2 倍にする -/
def Point.doubleX (p : Point α) : Point α :=
{ p with x := p.x + p.x}
#check Point.doubleX origin
継承
既存の構造体に新しいフィールドを追加した新しい構造体を定義することができます。多重継承(複数の親を持つ構造体を作ること)も行うことができます。
structure Point3D (α : Type) extends Point α where
z : α
structure RGBValue where
red : Nat
green : Nat
blue : Nat
structure ColorPoint3D (α : Type) extends Point α, RGBValue where
z : α
舞台裏
構造体は、帰納型の特別な場合であり、コンストラクタが一つしかないケースに対応します。上記の Point
は以下のように定義しても同じことです。ただしこの場合、アクセサ関数が自動的に作られないため、フィールド記法は自分で実装しないと使用できないほか、波括弧記法が使えません。
inductive Point' (α : Type) : Type where
| mk : (x : α) → (y : α) → Point' α
-- フィールド記法が利用できない
#check_failure Point'.x
-- 無名コンストラクタは使用できる
def origin' : Point Int := ⟨0, 0⟩
-- 波括弧記法は使用できない
/--
warning: invalid {...} notation, structure type expected
Point' Int
-/
#guard_msgs in
#check_failure ({ x := 1, y := 2 } : Point' Int)