Functor
Functor
は圏論における関手(functor)という概念からその名がある型クラスで、非常に雑な表現をすると、この型クラスを実装した型は「値を包んでいるコンテナのようなもの」として扱うことができます。特定のデータ構造に「包まれて」いる中の値に対して関数を適用していくという操作を行いたいことがありますが、Functor
のインスタンスはそれを可能にします。
より詳細には、F : Type u → Type v
に対して Functor
はおおむね次のように定義されています。
universe u v
/-- 関手 -/
class Functor (F : Type u → Type v) : Type (max (u+1) v) where
/-- 関数 `f : α → β` を関数 `F α → F β` に変換する -/
map : {α β : Type u} → (α → β) → F α → F β
/-- `a : α` に対して、定数関数 `const a : β → α` を関数 `F β → F α` に変換する。
`map` を使うよりも効率的に実装できることがあるので、上書きできるように用意されている。-/
mapConst : {α β : Type u} → α → F β → F α := Function.comp map (Function.const _)
つまり、Functor
のインスタンスは map
メソッドが使用できます。これは型からわかるように、関数を関数に写す高階関数で、「普通の関数 f : α → β
」を「F
に包まれた関数 F α → F β
」に持ち上げます。Functor.map
はよく使われる操作であるため、<$>
という専用の記法が用意されています。
-- `F` は Functor であると仮定
variable (F : Type → Type) [Functor F]
-- 関数 `g : α → β` と `x : F α` が与えられたとする
variable {α β : Type} (g : α → β)
-- 高階関数を返す
#check (Functor.map g : F α → F β)
-- `<$>` は `map` と同じ
example (x : F α) : g <$> x = Functor.map g x := rfl
典型的なインスタンス
List
Functor
型クラスの典型的なインスタンスのひとつが List
です。これにより「リストの各要素に関数を適用する」ための簡単な方法が提供されます。
-- リストの各要素を2倍する
#guard (fun x => x * 2) <$> [1, 2, 3, 4, 5] = [2, 4, 6, 8, 10]
Option
Option
も Functor
型クラスのインスタンスになっています。これにより「x? : Option
が some x
の場合に関数を適用し、none
なら none
を返す」という操作のための簡単な方法が提供されます。
#guard (fun x => x * 2) <$> some 2 = some 4
#guard (fun x => x * 2) <$> (none : Option Nat) = none
Functor 則
Functor
型クラスのインスタンスには満たすべきルールがあります。このルールを破っていても Functor
型クラスのインスタンスにすることは可能ですが、避けるべきです。Functor
型クラスがルールを満たしていることを証明するためには、LawfulFunctor
型クラスを使います。