定理と証明

ここからが楽しいところです.ここまで,型とは型理論における集合の呼び名であり,項とは型理論における要素の呼び名でした.しかし,ここで Lean の型理論におけるもう一つの宇宙,命題の宇宙 Prop を見てみましょう.そこで起こることは,私たちの伝統的なメンタルモデルとは全く異なります.ここでは,定理のステートメントと証明が,型や項と同じようにどのようにモデル化できるかを見ていきます.

定理のステートメントと証明はどのようにモデル化されるのでしょうか?Lean の型理論には Type という宇宙だけでなく,Prop という第二の宇宙があります.Prop 型の項は命題です.ここで残念な表記の衝突があります.数学では,proposition (命題)という言葉はしばしば定理のこどもという意味で使われますが,定理は真です.(そうでなければ予想や反例と呼ばれます)したがって,数学において命題という言葉は真である文を指しますが,ここでは,論理学者と同じように命題という言葉を使います.つまり,命題とは一般的な真か偽かどちらかになる文のことであり,それが正しいか誤りかは関係ありません.

例を見るとわかりやすいでしょう.$2 + 2 = 4$ は命題なので 2 + 2 = 4 : Prop と書くことができます.しかし,$2 + 2 = 5$ も命題なので,2 + 2 = 5 : Prop と書くこともできます.何度も言いますが,命題が真である必要はありません!命題は真か偽かどちらかになる文のことです.もう少し複雑な例を見てみましょう.

「すべての自然数 $x$ について $x + 0 = x$ である」という文は命題です.Lean では,これは (∀ x : ℕ, x + 0 = x) : Prop と表せます.命題は Prop 型を持つ項です.(先ほど見てきた項が型 Type を持っていたのと同様です)RH をリーマン仮説のステートメントとします.すると RH : Prop となります.それが真か偽か,特定の数学の公理と独立であるか,決定不能であるか,等は問いません.命題とは真か偽かどちらかになる文のことです.Lean の型理論の階層のうち,Prop 宇宙に住む部分を見てみましょう.

  • 宇宙 : Prop
  • 具体的な型 : 2 + 2 = 4, 2 + 2 = 5, フェルマーの最終定理のステートメント,リーマン仮説のステートメント
  • 具体的な項 : ??

この3層構造の Prop 階層において,項にあたるものは何でしょうか?それは証明です!