rw

rw は rewrite(書き換え)を行うタクティクです。等式や同値関係をもとに書き換えを行います。

hab : a = bhPQ : P ↔ Q がローカルコンテキストにあるとき、

  • rw [hab] はゴールの中の a をすべて b に置き換え、
  • rw [hPQ] はゴールの中の P をすべて Q に置き換えます。

複数の仮定 h1, h2, ... について続けて置き換えを行いたいときは、rw [h1, h2, ...] のようにします。

variable {a b c d e f : Nat}

-- 等式による置き換えの例
example (ha : a + 0 = a) (hb : b * b = 0) (hc : c + c = 0)
    : a + 0 + b * b = a + (c + c) := by
  -- `a + 0` を `a` に置き換える
  rw [ha]

  -- 複数ルールについて書き換え
  rw [hb, hc]

-- 同値関係に基づいて書き換えを行う例
example (P Q : Prop) (h : P ↔ P ∧ Q) : P → Q := by
  intro (hP : P)
  rw [h] at hP

  -- `P ↔ P ∧ Q` で書き換えを行ったので、
  -- `P` が `P ∧ Q` に置き換わった
  guard_hyp hP : P ∧ Q

  exact hP.right

利用可能な構文

右辺を左辺に書き換える

順番は重要で、ba に置き換えたいときなどは rw [← hab] のように をつけます。

example (h : a = b) (hb : a + 3 = 0) : b + 3 = 0 := by
  -- `rw [h]` だと `a` を `b` に置き換えるという意味になり、失敗する
  fail_if_success rw [h]

  -- `←` をつけて逆向きにすれば通る
  rw [← h]

  assumption

書き換え場所の指定

ゴールではなく、ローカルコンテキストにある h : P を書き換えたいときには at をつけて rw [hPQ] at h とします。すべての箇所で置き換えたいときは rw [hPQ] at * とします。

また、ゴールとローカルコンテキストの仮定 h に対して同時に書き換えたいときは 記号を使って rw [hPQ] at h ⊢ のようにします。

example (h : a + 0 = a) (h1 : b + (a + 0) = b + a) (h2 : a + (a + 0) = a)
    : a + 0 = 0 + a := by
  -- ローカルコンテキストとゴールのすべてに対して書き換えを行う
  rw [h] at *

  simp

example (h : a * b = c * d) (h' : e = f + 0) : a * (b * e + 0) = c * (d * f) := by
  -- ゴールとローカルコンテキストの両方に対して書き換えを行う
  rw [Nat.add_zero] at h' ⊢

  rw [h']

  -- 結合法則を使う
  rw [← Nat.mul_assoc, h]

  -- 結合法則を使う
  rw [Nat.mul_assoc]

rw の制約

変数束縛

rw は、変数束縛の下では使うことができません。代わりに simp タクティクなどを使用してください。

example (f g : Nat → Nat) (h : ∀ a, f (a + 0) = g a) : f = g := by
  ext x

  -- rw は失敗する
  fail_if_success rw [Nat.add_zero] at h

  -- simp は成功する
  simp only [Nat.add_zero] at h

  exact h x

nth_rw

rw はマッチした項をすべて置き換えてしまいます。 特定の項だけを書き換えたいとき、nth_rw が使用できます。

ローカル変数の展開

rw はローカル変数の展開を行うことができません。代わりに dsimp タクティクなどを使用してください。

/-- 5未満の自然数が存在する -/
example : ∃ x : Nat, x < 5 := by
  let n := 2
  have h : n < 5 := by
    -- rw はローカル変数の展開は行わない
    fail_if_success rw [n]

    -- dsimp で展開できる
    dsimp [n]

    -- あとは 2 < 5 を示せばよいだけ
    guard_target =ₛ 2 < 5
    decide

  exact ⟨n, h⟩

rewrite

rewrite というタクティクもあります。rw とよく似ていて、違いは rw が書き換え後に自動的に rfl を実行するのに対して、rewrite は行わないということです。rewrite はユーザにとっては rw の下位互換なので、あまり使うことはないかもしれません。

example (h : a = b) : a = b := by
  try
    -- `rw` を使用した場合は一発で証明が終わる
    rw [h]
    done

    fail

  rewrite [h]

  -- ゴールを `b = b` にするところまでしかやってくれない
  show b = b

  rfl